2020年4月24日- 5月6日
kitta Online Exhibition “EPIS/ODE”
Concept
「流転する世界の新しい均衡について」
概念の積み重ねによって作り上げられた世界の流転する様子が、今私たちの目の前にはっきりと輪郭をもって立ち現れている。世界中を自由に飛び回っていた私たちは閉ざされた門扉の内にいて、風と情報だけが内と外の往来を許されている。音楽を聴きに出かけることも、外で食事をすることも、今まで通りに仕事をすることも、会いたい人に会いに行くこともできなくなってしまった。コンビニエンスストアのレジカウンターは薄いビニールに覆われている。一体いつまでこれが続くのだろう、と皆が一様に思っているだろう。私たちを含む「自然」は、「世界」は、刻々と容赦なく変化している。私たちの戸惑いを他所に花はほころび、朝日や月の光は始まりの時から変わらず世界を照らし続けている。当たり前のことだ。自然はいつだって私たちの事情になど構わずただそこにある。
コロナウイルスの流行によって人間が活動を停止したこの短い時間で自然環境は目に見えて回復しているという。大気汚染は止まり、オゾン層は急激に回復し、野生動物が街を闊歩し、川の水は清らかさを取り戻しつつある。素晴らしいことだ。環境破壊を憂うならば私たちはこのまま息を潜めておけばいい。自然環境はみるみるうちに回復してゆくだろう。しかしそうは言っても、私自身の生活は既存の経済システムに寄りかかって成り立っている。マクロの視点から美しい自然を眺めて満足しているだけ、というわけにはいかないのだ。生活との折り合いをつけなくてはならない。ずっと息を潜めて内に篭っているわけにはいかない、それが今私の目の前にある「現実」だ。
だからこそ、これらの出来事から私は何を受け取ればよいのだろうかと考えている。私たちは生と死、破壊と再生といった対の関係を認めながら、反調和の因子として移り変わる均衡を生きている。歪みから生じた発展してゆくエネルギーの海を泳いでいる。私たちは私たちとして生命であり続ける限り、変化せずにはいられない。降り注ぐ厄災の最中、野生と文明、自然と人間、それらの新しい均衡を想像している。私も、あなたも、今この瞬間に自然の内で呼吸をしている。不確かで不平等なこの世界で、あなたが吐いた息を私は吸っている。
Photo by Yoina Sawano
2020
Exhibition / Event